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カメラマンの報酬源泉

~ホームページ素材なら源泉徴収不要~

所得税法では、ある特定の「報酬・料金等」の支払をする者は、その支払を行う際に所得税を源泉徴収する必要があることを規程しています。例えば、デザインの報酬等もこれに該当し、10万円のデザイン料の請求があれば、1万円の源泉所得税を差し引いた残りの9万円を相手方に支払うことになります。この規程が立法されたのは昭和19年です。現在では、その当時には考えられなかった様々な役務の提供が行われている結果、同一の役務提供であっても、その成果物がどのように利用されるかにより、源泉徴収の要否が変わることも考えられます。例えば、カメラマンの撮影料もその一つです。撮影された写真がパンフレットに利用されるのか、あるいはWEBサイトに利用されるのかにより、源泉徴収の取扱いが異なるように思われます。

所得税法204条1項では「居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。」として、その第1号に「原稿、さし絵、作曲、レコード吹込み又はデザインの報酬、放送謝金、著作権(著作隣接権を含む。)又は工業所有権の使用料及び講演料並びにこれらに類するもので政令で定める報酬又は料金 」と規程しています。

ここでいう『これらに類するもので政令で定める報酬又は料金』とは何でしょうか。

所得税法施行令320条1項に「法第二百四条第一項第一号 (源泉徴収義務)に規定する政令で定める報酬又は料金は、テープ若しくはワイヤーの吹込み、脚本、脚色、翻訳、通訳、校正、書籍の装てい、速記、版下(写真製版用写真原板の修整を含むものとし、写真植字を除くものとする。)若しくは雑誌、広告その他の印刷物に掲載するための写真の報酬若しくは料金、技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるものの使用料、技芸、スポーツその他これらに類するものの教授若しくは指導若しくは知識の教授の報酬若しくは料金又は金融商品取引法第二十八条第六項 (通則)に規定する投資助言業務に係る報酬若しくは料金とする。」と規程しています。

カメラマンの撮影料に関連する規程は『雑誌、広告その他の印刷物に掲載するための写真の報酬』です。これは即ち、「写真撮影」という役務全体ではなく、あくまで「印刷物に掲載する写真を撮影するための報酬」にのみ、源泉税を課すことをあらわしています。源泉徴収制度は、戦前に創設され、戦後の抜本的税制改正により申告納税制度を採用した結果、現在では事業所得者の申告納税額を前取りする性格のものとなりました。このような立法趣旨を考慮すれば、「雑誌、広告その他の印刷物に掲載する写真」を類推解釈して「WEBサイト素材の写真」であっても、その撮影報酬を源泉徴収の対象に含むべきであると考えることも出来そうですが、これは誤りと言えるでしょう。なぜなら、税法では租税法律主義という大原則があり、納税要件のすべてと租税の賦課・徴収の手続きは法律によって規定されなければならないと考えられているからです。従って、立法時には考えられなかった役務の提供が行われるようになり、それが源泉徴収の対象から外れていたとしても、税制が改正されるまで、それらは課税の対象とはならないと考えるべきです。

以上のことから、WEBサイトに掲載する写真の撮影をプロカメラマンに依頼したとしても、その報酬から源泉徴収を要しないものと考えます。
また、同じ「撮影」であっても、結婚式のビデオカメラマン等は、そもそも「写真撮影」ではないため、この規程には該当しません。

なお、支払者自身(発注者側)が源泉徴収義務者であるのか否かによっても源泉徴収の取扱いが異なりますので、詳細は、該当規程を参照してください。

(本原稿は平成22年7月1日現在の法令・通達等に基づき、作成しています)