会計・税務・
経営関連情報

Column

コラム

福利厚生-家賃補助制度(通勤交通費との比較を含めて)

福利厚生の一環で、家賃補助を行っている会社があります。

その内容は、「オフィス最寄り駅から2駅以内の賃貸物件に住めば月○万円」、「会社指定の近隣対象地域に住めば月○万円」、「オフィスから2㎞以内の賃貸物件で徒歩又は自転車での通勤者に対して月○万円」、「勤続5年以上ならどこに住んでも月○万円」などです。

時間的・身体的な通勤ストレスからの解放、仕事やプライベートの活動時間の有効活用などを目的としているみたいです。

働く従業員からすれば良い福利厚生に思えますね。しかし新たに導入する場合には会社の負担が増えそうですね。そんな中、負担が変わらないようにして導入している会社があります。
その取り組みとは、通勤交通費を支給していた従業員が会社の近隣に住むことにより通勤交通費が必要でなくなった若しくは会社負担が少なくなった場合でも、いままで支払ってきた通勤交通費までの金額を家賃補助として支給するという方法です。

これなら手当として支給する金額自体は変わりませんので、導入するハードルが低くなりますね。

そこで、同じ金額を通勤交通費で支払った場合と家賃補助として支払った場合とでは、税金などの取扱はどうなるのか見てみましょう。

・所得税の取扱

通勤交通費の場合は、所得税法において非課税の規定があり、交通機関利用者なら合理的な実費相当額(交通用具利用者なら距離に応じた一定額まで)は所得税の負担がありません。
家賃補助の場合は、通勤交通費のように非課税の規定がありませんので、給与所得者の収入として所得税の負担が発生します。
いずれの場合でも会社の所得税の負担はありませんが、従業員の所得税の負担に違いがでます。

・社会保険(健康保険、厚生年金保険)の取扱

通勤交通費の場合でも家賃補助の場合でも保険料の基礎となる報酬になります。
従って、いずれで支給したとしても会社の社会保険負担も従業員の社会保険負担も変わりません。

・労働保険(労災保険、雇用保険)の取扱

通勤交通費の場合でも家賃補助の場合でも保険料の基礎となる賃金になります。
従って、いずれで支給したとしても会社の労働保険負担も従業員の労働保険負担も変わりません。

・消費税及び法人税等の取扱

通勤交通費の場合は、通勤に通常必要であると認められる部分の金額は、課税仕入れに係る支払対価に該当するものとして取り扱われ納付する消費税から控除できます。
家賃補助の場合は、給与等の対価に該当するため納付する消費税から控除することは出来ません。

通勤交通費のほうが納付する消費税は少なくなりますが、その少なくなった分会社の利益が増え、法人税等の負担が増えます。しかし、全体的な税負担は少なくなります。

以下具体的な金額を用いて税負担の比較を見てみます

月に1,050,000円(消費税込み)を通勤交通費として支払う場合
納付する消費税は600,000円(50,000円×12ヶ月)少なくなります
法人税等は実効税率を40%とすると240,000円(600,000円×40%)多くなります。
消費税と法人税等を併せますと360,000円の負担が少なくなります。

月に1,050,000円を家賃補助として支払う場合
納付する消費税は変わりません
法人税等は実効税率を40%とすると240,000円(600,000円×40%)少なくなります。

両者の比較をしますと、月1,050,000円の負担の場合は、通勤交通費で支払った方の税負担が120,000円少なくなります。

ただし、消費税の計算方法につき簡易課税制度を選択している場合は、消費税の負担も法人税等の負担も変わりません。

従業員の負担から見ますと、通勤交通費で支給した方が所得税が非課税となり負担は少なくなります。
しかし、通勤交通費で支給した場合は、特に交通機関利用者につきましては、その通勤交通費がそのまま交通機関へ支払われ従業員の手元には残らないのが一般的です。
これに対して家賃補助の場合は、その家賃補助の分をいままでよりもより多く家賃や住宅購入資金に充てることができます。
また、その家賃補助の全額を家賃や住宅購入資金に充てる必要がない場合は従業員の可処分所得が増えることになります。
これらを考えますと、家賃補助の場合でも十分に従業員のメリットがあると考えられます。

一方、会社の負担から見ますと、消費税及び法人税等での負担に違いが出ています。しかし、会社の手当の支給金額の多寡にもよりますが、それほど大きな影響はでないように思えます。

通勤交通費のコストと家賃補助のコストとが代替関係にあると考えたこのような福利厚生の取り組みは、会社と従業員の双方にメリットがあり、また小さな会社負担で大きな効果があるものだと思います。

以上、福利厚生を検討される際の参考になれば幸いです。